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視覚言語モデル 【連載】自然言語処理の研究動向 第9回

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視覚言語モデル
【連載】自然言語処理の研究動向 第9回

2026.3.25
株式会社Laboro.AI リードMLリサーチャー 趙 心怡

概 要

視覚言語モデル(VLM)の登場は、画像情報をベースとした言語生成を可能にし、視覚理解のあり方を劇的な変化へと導きました。かつては画像とテキストを対応付ける研究が中心でしたが、現在のモデルはゼロショット学習や自由度の高いマルチモーダル生成を実現するまでに至っています。本稿では、VLMのこれまでの進化を3段階に整理した上で、次なる「第4の波」として期待される視覚知能の展望について考察します。

連載第1回「自然言語処理の研究動向 全40トピックの俯瞰」はこちら
連載第8回「議論マイニング」はこちら

目 次

視覚言語モデル(VLM)とは
主要な技術的進歩
今後の展望と課題

視覚言語モデル(VLM)とは

これまで、自然言語処理(NLP)とコンピュータビジョン(CV)は、互いに独立した専門分野として発展してきました。NLPが契約書やメールといったテキスト解析を担う一方で、CVは監視カメラの映像解析や製造ラインの品質管理など、主に視覚情報の処理に特化してきた経緯があります。しかし、今日の技術革新はその境界線を曖昧にしつつあります。

深層学習とモデルアーキテクチャの急速な進展により、両者を統合した「視覚言語モデル(VLM)」が登場しました。従来のモデルとは一線を画し、VLMは視覚情報とテキスト入力を同一の系で処理することで、対象を見て読み、推論した結果をテキストとして出力します。VLMの根幹はNLPの原理にありますが、その構造は従来のアーキテクチャから大きく変化しました。複数のプログラムを組み合わせた脆弱なシステムから、大規模データを通じて画像やテキストを一つの頭脳で理解する、よりシンプルで高度な仕組みへと移行しています。

このパラダイムシフトは、ビジネスにおけるAIの可能性を大きく広げます。従来のCVツールは、特定の物体を検知し枠で囲むといった限定的なタスクに留まっていました。対照的に、現代のVLMは「アクティブ・アナリスト」としての役割を果たします。画像のキャプション生成や複雑なコンテキストへの回答、さらにはチャートからのトレンド分析など、視覚的な事象に基づいた高度な言語的洞察の提供が可能になったのです。

主要な技術的進歩

第1の波:画像読解型 / 「構成要素の解析」の時代 (2019–2020)

ViLBERT (2019)LXMERT (2019)VisualBERT (2019) などに代表される第1の波は、テキストを読むために使用されるTransformerアーキテクチャが、画像も「読む」ことができることを証明しました。この時代のモデルは画像を文章のように扱い、写真をオブジェクト領域(例:「車」「木」「犬」)のシーケンスに分解。これらのビジョントークンをテキストと共に処理することで、両社の関連性を学習しました。

このアプローチによって、「車の色は何色か?」といった視覚的な問いに対し、用意された選択肢から回答する能力が実現しました。しかし、そこにはいくつかの限界も存在しました。第一に、視覚領域の特定を外部の物体検出器に依存していたこと。第二に、学習には厳密にラベル付けされた膨大なデータセットを必要としたこと。そして第三に、これらのモデルは識別的(discriminative)であり、人間のように自由な形式で回答を生成するのではなく、あらかじめ定義されたリストから正解を分類することしかできなかったのです。

第2の波:概念統合型 / 「ベクトル対応」の時代 (2021–2022)

OpenAIの CLIP (2021) やGoogleの ALIGN (2021) が主導した第2の波は、モデルのスケーラビリティと汎用性への転換点となりました。これらのモデルは、外部の物体検出器への依存を排除し、汎用エンコーダを使用して画像をホリスティック(全体論的)に処理します。目的は文法を深く解析することではなく、画像のベクトル(例:犬の写真)が、テキスト記述のベクトル(例:「これは犬です」)と自然に一致するような共通の埋め込み空間を学習することにありました。

これを実現するために、研究者は厳密にラベル付けされたデータセットから離れ、インターネットから収集された数億組のノイズを含む「画像とテキストのペア」で学習を行いました。この大規模なスケールが、驚くべき新能力であるゼロショット学習を可能にしました。特定のカテゴリで学習することなく、画像のベクトルが「これはカモノハシです」というテキスト埋め込みと一致するかを確認するだけで、モデルは「カモノハシ」のような全く新しい概念を認識できるようになったのです。これにより、厳選された学習データやタスク固有の微調整を必要としない、拡張可能な画像検索および分類システムへの道が開かれました。

第3の波:生成・対話型 / 「マルチモーダル推論」の時代 (2023–現在)

現在進行中の第3の波は、BLIP-2 (2023)LLaVA (2023)GPT-4V (2023) に例示される「生成的な統合」を象徴しています。モデルをゼロから構築するのではなく、研究者は高性能な「視覚の目」(第2の波の成果)を「言語の脳」(大規模言語モデル:LLM)と直接融合させる方法を見出しました。

この融合により、モデルの能力は単なる画像照合の域を遥かに超えるものとなりました。「言語の脳」を獲得したことで、屋外環境での光学文字認識(OCR)、複雑なデータチャートの解釈、視覚コンテンツに関する機微に触れた対話、さらにはミーム(インターネット上のネタ画像)のユーモアの解説までもが可能になったのです。この変革は、AIの役割を受動的なタグ付けから能動的な分析へとシフトさせました。視覚情報を単に見るだけでなく、深く理解し、具体的なアクションに繋げる必要があるエンタープライズ・インテリジェンスや製品検索、アクセシビリティ、コンテンツ・モデレーションといった広範な分野において、すでに多大な影響を及ぼしています。

今後の展望と課題

これまでに述べた3つの潮流は、VLMが向かうべき「第4の波」の輪郭を浮き彫りにしています。最新のトレンドに基づき、私たちは今後の有望な方向性として以下の要素を特定しました。

1.記憶と推論の導入
テキストLLMの進化を追随するように、視覚モデルも「記憶」と「推論」の実装へと舵を切っています。これには、CoMemo (2025) に見られるマルチモーダル長期記憶の開発や、Visual-CoT (2024)LlamaV-o1 (2025) に代表される、回答前にモデルが内省を行う思考の連鎖(Chain-of-Thought)機能の高度化が含まれます。

2.ビデオ理解と推論
動画の中の文脈を読み解くうえで、処理の重さや時系列的な理解の限界は依然として大きな課題ですが、近年では VideoLLM-online (2024)StreamingVLM (2025) といった、このギャップを埋めるための革新的な試みが続いています。

3.統合Transformer(Unified Transformers)
 CM3Leon (2023)Mogao (2025)ShapeLLM-Omni (2025) といった新世代のモデルは、ネイティブなインターリーブ生成(テキストと非言語情報の混在生成)をサポートし始めています。単一のモデルがテキスト、画像、さらには3Dコンテンツをシームレスに読み書き・編集できるこの技術は、真のオムニモーダル知能への道を開くものです。

しかし、能力の拡大に伴い、安全性におけるリスクも増大しています。こうした脆弱性の多くは、システムの認知的なバックボーンであるテキストLLMから直接引き継がれたものです。例えば、根強い課題であるハルシネーション(幻覚)の影響は、Yang et al. (2025)Min et al. (2025) の最近の研究が示すように、現在は視覚ドメインにも及んでいます。

これら既存のリスクに加え、VLM特有のマルチモーダル設計が新たな課題を浮き彫りにしています。Liu et al. (2025) は、視覚入力を追加するだけでモデルの安全性指示への準拠(アライメント)が弱まり、不安全な回答を生成する可能性が高まることを指摘しました。

結論として、これらのリスクを特定すること自体が、第4の波を乗りこなすためのロードマップとなります。慎重な設計と標的を絞ったセーフガードを講じることで、次世代のVLMはより有能になるだけでなく、より信頼できるものになると期待されています。

執筆者

エンジニアリング部 リードMLリサーチャー 趙 心怡

自然言語処理、機械学習、ナレッジグラフを中心とした研究に従事。これまで複数のオープンソースのデータセットとモデルの構築に貢献してきた。最近の研究ではLLMの実社会への応用を探求し、学術研究と実際のユースケースの橋渡しに情熱を注いでいる。

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