
異常検知とは? 関連する機械学習手法や導入のメリットも解説
2025.2.28
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一
執行役員 マーケティング部長 和田崇
概 要
異常検知とは、通常とは異なるデータの振る舞いや異常なパターンを自動的に検出し、問題の早期発見や業務の最適化を支援する技術です。機械学習の発展により、これまで人の判断に頼っていた異常検知が、より高度で精度の高いものへと進化しました。異常検知の基本概念をはじめ、主要な手法や機械学習の活用、導入のメリットや注意点などを詳しく解説します。
目 次
・異常検知とは
・異常検知の主要な手法
・異常部位検出
・変化点検出
・外れ値検出
・異常検知システムの機械学習手法
・教師あり学習
・教師なし学習
・半教師あり学習
・強化学習
・異常検知で用いられる代表的な機械学習アルゴリズム
・ホテリング理論
・単純ベイズ法
・k近傍法(KNN法)
・局所外れ値因子法(LOF法)
・主成分分析(PCA)
・異常検知を導入する理由・メリットとは
・人件費が削減でき、効率的な業務フローが確立できる
・人的に作業によるミスを防ぐことができる
・業務の属人化を防ぎ、安定的な体制が構築できる
・異常検知導入時の注意点
・適切なデータ収集と前処理
・運用と継続的な改善
・【業界別】異常検知の活用事例
・製造業界:設備保全と故障予測
・金融業界:不正取引の検出
・医療業界:患者モニタリングと疾病早期発見
・まとめ
異常検知とは
異常検知とは、データの中から通常とは異なる挙動やパターンを検知する技術です。
ITシステムの監視、金融取引の不正検出、製造業の設備保全など、多岐にわたる領域で活用されており、IoTの普及やビッグデータの解析技術の進歩により、リアルタイムで膨大なデータを解析し、即座に異常を検出することが可能になりました。
その後、統計的手法や機械学習を活用した異常検知技術が発展したことで、未知の異常パターンを検出したり、環境の変化も踏まえつつ異常を判定したりすることも可能になっています。
参考:IBM「異常検知とは何ですか。」
異常検知の主要な手法
異常検知には、データの特性や目的に応じて多様な手法が存在します。適切な手法を選択することで、検知精度を向上させ、より効果的なシステム運用が可能になります。ここでは、代表的な三つの手法について詳しく解説します。
異常部位検出
異常部位検出は、データ全体ではなく、特定の領域や部分に異常が含まれているかを識別する手法です。例えば医療分野では、心電図のデータの一部に異常が見られた場合、それを特定することで疾患の早期診断につなげることができます。
この手法では、コンピュータビジョンを用いた画像解析技術が主に採用されます。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)は、画像内の特徴を学習し、異常部位を特定するのに優れた性能を発揮します。
異常部位検出の精度が向上すると、異常の原因を特定しやすくなり、より迅速かつ適切な対応が可能になります。
変化点検出
変化点検出は、時系列データの中で特定のタイミングにおける急激な変化を検知する手法で、いくつかのアプローチがあります。
累積和(CUSUM)は、小さな変化を積み重ねて監視し、閾値を超えた時点で異常を判定する手法です。ベイズ変化点検出は、確率モデルを活用し、変化点の発生を推測します。移動平均を用いた手法では、一定期間のデータの平均値を比較することで、変化点を識別し、リアルタイムのデータ解析に役立てることができます。
変化点検出は、異常の早期発見に適しており、金融市場のトレンド分析やネットワーク監視など、さまざまな分野で活用されています。
外れ値検出
外れ値検出は、データセットの中で他のデータと大きく異なる値を持つデータポイントを識別する手法です。異常なデータを見つけることで、システム障害の予兆や不正行為の兆候を早期に検出することにつなげられます。
例えば、銀行の取引データにおいて、通常の取引パターンから大きく逸脱する送金があった場合不正取引である可能性を考慮して調査を進める判断に役立てられます。
単に異常を見つけるだけでなく、そのデータが有益な情報を含んでいるかどうかを分析することも重要です。背景情報を考慮しながら適切な検出を行うことで、より効果的な異常検知が可能になります。
参考:日立ソリューションズ・クリエイト「AIで異常検知! 取り入れるメリットや成功事例を解説」
AI Market「異常検知とは?メリットや学習方法、手法、ディープラーニング」

異常検知システムの機械学習手法
異常検知システムにおいて、機械学習は不可欠な要素の一つです。データの種類や目的に応じて適切な学習手法を選択することで、異常検知の精度を向上させることができます。主に、教師あり学習、教師なし学習、半教師あり学習、強化学習の四つの手法が活用されています。
教師あり学習
教師あり学習は、ラベル付きデータを用いてモデルを訓練し、新しいデータの分類や予測を行う手法です。異常検知においては、正常データと異常データの両方を学習させることで、新たなデータがどちらに該当するかを判定します。
例えば製造業の品質検査では、正常品と不良品のデータを学習することで、新たに生産された製品の品質を自動的に判定できます。この手法は、明確な異常データが存在し、ラベル付きデータを十分に確保できる場合に有効です。
ただし、異常データは発生頻度が低く、収集が困難なケースも多いため、データの偏りが生じる可能性があります。異常データが十分に得られない場合は、他の手法と組み合わせて活用することも重要になるでしょう。
教師なし学習
教師なし学習は、ラベルのないデータを基にデータの構造やパターンを学習する手法です。異常検知においては、正常データのみを学習し、それとは異なる挙動を示すデータを異常と判断する方法が一般的です。
例えばネットワークにおけるトラフィックの監視では、通常の通信パターンを学習し、それと大きく異なるトラフィックが検出された場合に異常と見なします。この手法は、未知の異常を検出する能力に優れているため、事前に異常のパターンを特定することが難しい場面で活用されます。
ただし、正常データの範囲を適切に学習していないと、誤検知が発生しやすくなります。そのため、データの前処理や異常スコアの閾値設定を適切に行うことが必要です。
半教師あり学習
半教師あり学習は、少量のラベル付きデータと大量のラベルなしデータを組み合わせてモデルを学習させる手法です。異常検知では、正常データの一部にラベルを付与し、異常データはラベルなしとして学習させることで、モデルの汎用性を高めます。
例えば医療現場では、限られたラベル付きデータと膨大なラベルなしデータを活用し、疾患の早期発見に役立てることができます。ラベル付けのコストが高い場合や、異常データの収集が難しい場面で有効です。
ラベルなしデータを有効活用できれば、モデルの学習効率を向上させる効果があります。異常データの特徴が明確でなくても、通常のデータと比較することで異常を検出できる点が大きな利点です。
強化学習
強化学習は、エージェントが環境と相互作用しながら、報酬を最大化する行動を学習する手法です。異常検知への直接的な応用は少ないものの、システムの最適化や動的な異常対応の分野で活用されています。
例えば、インフラ設備の運用において、強化学習を活用して最適なメンテナンススケジュールを学習し、異常の発生を未然に防ぐ仕組みが検討されています。このようなシステムでは、試行錯誤を通じて異常発生のリスクを最小限に抑えながら、最適なメンテナンス戦略を自動的に学習可能です。
強化学習についてはこちらもご覧ください。
異常検知で用いられる代表的な機械学習アルゴリズム
異常検知では、さまざまな機械学習アルゴリズムが活用されています。それぞれの手法に特徴があり、適切に選択することで、検出の精度を向上させることが可能です。
ホテリング理論
ホテリング理論は、統計学に基づいた異常検知手法の一つで、データの平均や分散、分布の偏りを分析し、通常とは異なる値を特定します。データが正規分布に従う場合に特に有効であり、製造業の品質管理や金融取引の不正検知など、幅広い分野で活用されています。ただし、データが正規分布に従わない場合、異常判定の精度が低下することがあるため、データの特性に応じた調整が必要です。
単純ベイズ法
単純ベイズ法は、ベイズの定理を基にした分類手法で、各特徴量が独立していると仮定してデータを分類します。観測データの事前確率と条件付き確率を計算し、最も確率の高いクラスに分類する仕組みです。計算が容易でありながら高い精度を発揮する点が特徴です。スパムメールの検知やテキスト分類、異常検知など、さまざまな分野で利用されています。ただし、特徴量間の相関を考慮しないため、データによっては分類の精度が低下する可能性があります。
k近傍法(KNN法)
k近傍法は、データポイント間の距離を測定し、類似性を基に分類や異常検知を行う手法です。新しいデータポイントに対して、既存のデータセット内の最も近いk個のデータを選び、多数決や平均値を用いて分類や異常検知を実施します。
異常検知の分野では、データポイントが近傍のデータとどれほど異なっているかを評価し、一定の閾値を超えた場合に異常と判断します。シンプルで理解しやすく、時系列データの分析やクラスタリングを活用した異常検知に適しています。
局所外れ値因子法(LOF法)
局所外れ値因子法(Local Outlier Factor, LOF)は、データポイントの局所密度を比較し、異常を検出する手法です。あるデータポイントの局所密度をその近傍のデータと比較し、密度の違いを基に異常度を算出します。
異常値がデータセット全体ではなく、局所的な範囲に存在する場合に特に有効です。例えば、通常のデータが一部のエリアに集中している場合、その密度から大きく外れたデータポイントを異常と判定できます。データの密度が不均一な場合や、孤立した異常値の検出に強みを持つため、例えばネットワークセキュリティーの異常検知や、異常な購買行動の検出などに活用されています。
主成分分析(PCA)
主成分分析(Principal Component Analysis, PCA)は、高次元のデータを低次元に変換し、データの主要な特徴を抽出する手法です。正常データから主成分を学習し、新たなデータがその主成分からどれだけ外れているかを評価することで、異常を検出します。また、複数の変数を持つデータを少数の主成分に変換することで、データの構造を簡潔に表現し、異常検知の精度を向上させます。特に、ノイズを除去しながらデータのパターンを分析できるため、金融業界のリスク管理や、製造業の品質検査などに活用されています。
参考:宇部情報システム「AI異常検知の学習モデルを徹底解説!」
tebiki「異常検知とは?機械学習不要で実施できるツールも紹介!」
異常検知を導入する三つのメリットとは
異常検知システムの導入は、企業にとって業務の効率化や品質向上に大きく貢献します。AIや機械学習を活用した異常検知は、従来の手作業による監視や検査と比べて、より迅速で高精度な対応が可能になります。
ここでは、導入することで得られる三つのメリットを紹介します。
人件費が削減でき、効率的な業務フローが確立できる
異常検知システムを導入することで、これまで人が行っていた監視や検査業務を自動化できます。AIは膨大なデータを瞬時に処理し、短時間で異常を検出できるため、作業の効率と精度が大幅に向上します。その結果、検査員の負担を軽減できるだけでなく、人件費の削減にもつながります。
また、AIによる異常検知は作業の標準化を促進します。従来の方法では、担当者の経験や判断基準によって異常の認識にばらつきが生じることがありました。しかし、AIを活用することで、誰でも一貫した基準で異常を判断できる環境を構築できます。
参考:AI Market「異常検知とは?メリットや学習方法、手法、ディープラーニング」
人的に作業によるミスを防ぐことができる
人間が行う業務には、どんなに注意していてもミスが発生する可能性があります。例えば単調な作業や長時間の監視業務では集中力が低下し、異常を見落とすリスクがなおさら高まります。一方、異常検知システムを導入することで、AIが一貫した基準でデータを分析し、ヒューマンエラーを大幅に削減できます。
参考:日立ソリューションズ・クリエイト「AIで異常検知! 取り入れるメリットや成功事例を解説」

業務の属人化を防ぎ、安定的な体制が構築できる
業務が特定の担当者に依存していると、その人が退職・異動した際に大きな問題が発生することがあります。異常検知システムを導入することで、経験や勘に頼らず、AIが統一基準で異常を検出できる環境を整えることが可能です。f
例えば熟練技術者のノウハウをAIに学習させることで、異常検査の自動化が実現します。これにより、新しい担当者でも一定の品質基準を維持しながら業務を行うことができるため、業務の属人化を防ぐことができるでしょう。
参考:Tryeting「異常検知をシステム化するメリットと注意点を解説!」

異常検知導入時の注意点
異常検知システムを効果的に運用するには、導入時の適切な準備が重要です。高精度な検出を実現するためには、データの質を高めることが不可欠であり、導入後も継続的な改善が求められます。
ここでは、特に重要な2点を紹介します。
適切なデータ収集と前処理
異常検知の精度を向上させるには、まず質の高いデータを確保することが必要です。センサーやログから収集されるデータは、異常パターンを特定するための基盤となります。しかし、取得したデータには欠損値やノイズが含まれることが多く、そのままではモデルの精度が低下する可能性もあるものです。
これを回避するために、データの前処理が重要になります。欠損値の補完や外れ値の処理を適切に行うことで、より正確な分析が可能になります。
参考:MatrixFlow「AI・機械学習に必須のデータの前処理とは?正規化・標準を使った前処理方法を解説」
運用と継続的な改善
異常検知システムは、一度導入すれば終わりではなく、継続的な運用と改善が求められます。環境の変化や新たな異常パターンに対応するため、モデルの再学習を定期的に実施し、検知精度を維持することが重要です。
例えば製造業では、設備の老朽化や生産条件の変更により、異常のパターンが変化する可能性があります。金融業界では、不正行為の手口が進化し続けていて、最新の取引データを学習し、異常の兆候をより正確に捉える必要があります。
運用中のデータを活用してモデルを継続的に更新することで、検知精度を維持できます。
参考:Fiby「AI異常検知の詳細・活用事例と導入方法まとめ」
【業界別】異常検知の活用事例
異常検知技術は、すでにさまざまな業界で活用され、業務の効率化や安全性の向上に寄与しています。以下に各業界での具体的な活用事例を紹介します。
製造業界:設備保全と故障予測
製造業では、機械の故障を未然に防ぐために異常検知が活用されています。例えば富士電機は生産設備の異常検知システム「OnePackEdge」を導入しました。f振動データや温度センサーの情報を分析することで、異常の兆候をリアルタイムで検出する仕組みを構築しています。
これにより、事前にメンテナンスを実施できるため、設備の寿命を延ばし、無駄なコストの削減につながっているとしています。
参考:富士電機「予知保全(予兆保全)とその事例」

金融業界:不正取引の検出
金融機関では、クレジットカードの不正利用やマネーロンダリング対策としてAIによる異常検知が導入されています。不正取引の手口は年々高度化しており、ルールベースの監視だけでは検出が難しくなっています。
マスターカードはAIを活用した不正検知システムを導入し、カード取引のパターンをリアルタイムで分析することで、不正利用の可能性がある取引を即座に特定する仕組みを構築しています。
このシステムでは、過去の取引履歴や利用者の行動パターンを学習し、通常とは異なる取引が行われた際に警告を発することで、不正被害の拡大を防いでいます。従来のルールベースのシステムでは検出できなかった微細な異常も、機械学習モデルによって精度高く検出できる点が特徴です。その結果、すでに同社は不正検知を20%改善させられただけでなく、不正検知誤認も85%解消することに成功したとしています。
参考:Datos Insights「マスターカードが導入したAIによる不正検知システム」

医療業界:患者モニタリングと疾病早期発見
医療業界では、異常検知技術が診断支援や患者のモニタリングに活用され、医師の負担軽減や診断精度の向上につながっています。特に、画像診断分野ではAIがレントゲンやMRI画像を解析し、異常な部位を自動的に特定する技術が進化しています。
例えば、理化学研究所や昭和大学などの研究グループは、胎児の超音波検査画像約1万2000枚をAIに学習させ、心臓の異常を検知できるシステムを開発しています。このシステムは、2024年7月に国の承認を受け、妊婦健診の現場で実用化が進められています。AIを活用することで、先天性心疾患の診断精度が向上し、より多くの赤ちゃんの健康を守ることが期待されています。
参考:NHK「AIで胎児の心臓の異常 検知するシステム実用化 早期発見に期待」

まとめ
異常検知技術は幅広い業界で活用され、業務の効率化やリスク管理の向上に大きく貢献しています。AIを活用することで、異常の兆候を迅速かつ高精度に検出し、人的ミスの削減やコストの最適化が可能です。また、リアルタイムでの異常検知が実現されることで、問題が拡大する前に対応しやすくなり、組織全体の対応力が向上します。
ただし、高精度な異常検知を実現するためには、適切なデータの収集と前処理が不可欠です。データの質が低いと、誤検知や見逃しが増え、システムの信頼性が損なわれる可能性があります。
異常検知技術は今後さらに進化し、より高度な解析が可能になることが期待されます。各企業や業界に適した最新技術を取り入れながら、最適な導入方法を検討し、業務の効率化と安全性の向上につなげていくことが重要になるでしょう。その際、知見が豊富だったり伴走ができたりする外部ベンダーを活用するのも有効な手です。
執筆者
マーケティング部 リードマーケター 熊谷勇一
中央大学文学部卒業、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了。日本経済新聞社など日経ブランド企業で16年、雑誌、書籍、ウェブサイト、動画などの編集・執筆を手掛けた後、2022年からLaboro.AIに参画。
執行役員 マーケティング部長 和田 崇
立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。



