
AIとビッグデータの正の連鎖。事例やビジネス成長のポイントも解説
2025.1.20
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一
執行役員 マーケティング部長 和田崇
概 要
ビッグデータの活用は、現在AIがこれほど進展する前から言われてきましたが、そのAIの進展にはビッグデータが欠かせません。AIが学習するデータも、解析の対象にするデータも、ビッグデータであることが多いからです。本コラムでは、AIとビッグデータの正の連鎖にある関係を再確認し、AIをより深く理解して活用するためのポイントを解説 します。
目 次
・ビッグデータとAIの関係性
・ビッグデータとは
・ビッグデータの発展と現状までの流れ
・ビッグデータとAIの関係性
・AIにビッグデータを活用するメリット
・業務効率化と生産性向上
・顧客ニーズの予測と現状分析
・データに基づく意思決定の強化
・AIとビッグデータを活用した事例
・事例① 潜在ニーズ探索によるAIレコメンド
・事例② AIオーダーシステムによる発注業務の効率化
・事例③AIヘルプデスク導入により対応効率の向上
・ビッグデータ活用の際に起きる課題
・データ解析基盤の作成・整備の複雑さ
・構築・活用ができる人材の不足
・AIとビッグデータを活用する際のポイント
・外部委託などを活用しながらスピード感を持っての実装を行う
・ビッグデータの収集・保管環境を整備する
・まとめ
ビッグデータとAIの関係性
ビッグデータとは
ビッグデータとは、従来のデータ処理技術では扱いきれないほど膨大で複雑なデータ群を指します。例えば、多数のユーザーによるスマート家電の使用状況や、ウエアラブルデバイスの健康データ、ECサイトの閲覧・購買履歴などが挙げられます。また、単にデータ量が膨大なだけでなく、そのデータを有効に活用できる方法が見いだされているときに、ビッグデータと呼ばれる向きがあります。
これらのデータは、IoTデバイスやSNSなど、さまざまな媒介を通じて収集・蓄積され、企業や組織にとって価値ある取り組みを実現する上で有効活用ができるかどうか、検討の対象になり得ます。
また近年は、ウェブサービスやセンシング技術の進展により、これまでは把握されてこなかった情報や事象もデータ化され、ビッグデータの一部として扱われるようになってきました。
ビッグデータの登場と現状までの流れ
ビッグデータは、1990年代のデータマイニングの普及を皮切りに、2010年ごろからデータベース管理システムであるNoSQLや分散処理システムであるHadoopなどが活用されることによって扱えるデータ量が大幅に増えたことから注目され、発展してきました。近年ではリアルタイムデータ分析や、クラウドストレージの進化が進み、ビッグデータはインターネットなどと同様に、ビジネスだけでなく人々の生活の上でも、もはや意識せずとも幅広く利用されて恩恵を授けている存在になっています。
今後はIoTの高度化や 5G技術のさらなる進展により通信が高速化することで、得られるデータの種類や量は増加していき、ビッグデータを活用できる領域はさらに広がっていくでしょう。
参考:TRYETING「ビッグデータの基礎知識」
総務省「ビッグデータ活用の現状と課題」
ビッグデータとAIの関係性
ビッグデータとAIは、互いに価値を引き出し合う関係にあります。ビッグデータはAIが学習するための膨大なデータとなり、学習して性能が向上したAIは、また他のビッグデータを分析・解釈して有用な洞察を引き出し、さらにAIがビッグデータで学習して…と正の連鎖を生み出せる関係ともいえます。
ビッグデータと呼ばれるほど膨大なデータ群は、2000年代まではその処理ができる計算機が一般にはなかったため、活用されてきませんでした。その後に処理ができるシステムが普及してきたからこそ活用が見いだされ、名付けられた概念ともいえます。AIは逆に、性能向上のための学習には基本的に膨大なデータが必要なため、十分なデータを用意することが不可欠という課題が常にあり、AI開発において乗り越えるべき過程の一つになっています。
AIは20世紀から存在していますが、ここ数年で生活者が使えるまでに進展してきた背景として、ビッグデータの活用が実現したことが欠かせません。
ビッグデータとAIの連携により、業務の効率化や顧客ニーズの予測、データに基づく意思決定といったことが高い精度で可能となりました。例えば、AIがビッグデータから市場のパターンやトレンドを抽出し、マーケティング戦略の最適化や在庫管理の効率化に役立てるような使い方です。人間が実施するそれよりも、速度や品質においてはるかに優れているケースも現れています。ビッグデータとAIの正の連鎖は、現代のビジネスにおいて競争力を高める重要な要因にもなり得ます。
参考:Jitera「AIとビッグデータの関係性」

AIにビッグデータを活用するメリット
AIとビッグデータの組み合わせるメリットを、もう少し詳しく見ていきます。そうしたメリットへの理解を深めることで、自社における活用の可能性を正しく探ることや、AI導入に際しての意思決定を円滑に進められることにつながります。
業務効率化と生産性向上
AIによるビッグデータ解析は、単なるデータ処理の効率化だけでなく、業務全体の構造を見直すきっかけも提供します。例えば生産工場では、センサーによって得られたリアルタイムデータをAIが解析し、機械の稼働効率の向上につなげられます。そうした運用を継続することで現場のデータを蓄積し、AIのさらなる学習につなげられ、正の連鎖の精度向上も見込めます。
顧客ニーズの予測と現状分析
AIは、膨大なデータからパターンを見いだすことに長けており、例えば顧客データの中から価値あるパターンを見いだすこともその一部です。従来の方法である、購買履歴や市場調査を人間が分析するだけでは見つからなかった、潜在的な傾向を見いだすこともあります。
例えばECサイトの運営においては、閲覧・購買履歴をAIが分析し、個別のユーザーに合った商品を提案するレコメンド機能が実現されています。リアルタイムの行動分析によって、人間がレコメンドを行うよりもはるかに素早く、それでいてパーソナライズなレコメンドも可能です。
また、ある商品の購買者の居住地や年齢といった属性を数多く掛け合わせた分析や、広告の特徴を細かく分析して、そのそれぞれがどういった属性を持つ人に高い効果を出しているのかの分析など、精密なマーケティング施策の前提となる精密な調査・分析ができます。
データに基づく意思決定の強化
AIの解析は、膨大なデータを短時間で処理し、時間の面でも意思決定に役立つ洞察を提供します。特定の意思決定者による直感や経験に頼りがちな経営判断に、データドリブンな洞察が加わり、入れるべき考慮を抜け漏れなくさせたり、必要な検討に十分な深さを与えられたりします。

AIとビッグデータを活用した事例
実際にAIとビッグデータを活用して一定の成果を収めている事例を取り上げます。
事例① 潜在ニーズ探索によるAIレコメンド
ある大手自動車メーカーは、従来の目的地検索システムが明確なニーズにしか対応できず、潜在的なニーズを引き出すことができない課題を抱えていました。
Laboro.AIは「潜在ニーズ探索型レコメンドAI」の提供によりこの問題の解決に取り組みました。導入したAIは、ユーザーが直感的に選択できる「好き・嫌い」「行きたい・行きたくない」といった感覚的な回答を基に、提案を行う仕組みを採用しています。活用したデータは、インターネット上にある口コミなどの「ユーザーの声」が記載されたビッグデータや、選択履歴データ、ユーザーのデモグラフィックデータ、嗜好度合のデータなどです。
その結果、同サービスにおける目的地提案の精度向上と多様性の拡大に成功し、選ばれる目的地の種類を30%増加させています。さらに、システム利用に必要な時間も20%短縮されるなど、直感的で効率的なユーザー体験にも貢献しました。
詳しくはこちらをご覧ください。
Laboro.AI「潜在ニーズ探索によるAIレコメンド」

事例② AIオーダーシステムによる発注業務の効率化
イオンリテールは、店舗運営における発注業務の効率化と精度向上を目指し、独自開発の「AIオーダー」システムを導入しました。
従来の発注業務では、担当者が過去の販売実績や経験に基づいて手作業で行っており、時間がかかる上に、品切れや過剰在庫のリスクが大きいという課題を抱えていました。この課題に対処すべく導入されたAIオーダーは、日々刻々と変わる顧客数や売上データ、天候といったビッグデータの要因を分析し、最適な発注数を自動で算出する仕組みを実装しています。
このソリューションを導入した結果、同社では従来よりも発注作業時間が約50%短縮され、発注精度も最大で40%向上しました。在庫削減や従業員の業務効率化が実現し、店舗運営の最適化に大きく貢献しています。
参考:PR TIMES「AI活用で“発注ミス”を解消!イオンリテールが独自開発したAIオーダー」

事例③「宇宙ビッグデータ」を水道管老朽化対策に活用
天地人が提供する「天地人コンパス宇宙水道局」は「宇宙ビッグデータ」とも呼ばれる衛星データを活用するサービスです。衛星が観測したデータや、水道事業者が保有する水道管路情報などを組み合わせ、それをAIで解析することで、約100メートル四方の区画ごとに漏水リスクを評価したり、点検や修理などの記録を管理したりできます。例えば、現在起きている漏水や、近い将来起き得る漏水のリスクが一目で分かるように提示することができます。
このサービスの導入によって、水道事業者は調査期間を短縮し、点検費用を削減できるとしています。例えば、1000キロメートル以上の管路延長を保有するある水道事業者では、調査対象を漏水リスクが高いエリアに絞り込み、その結果、調査期間が12年から1年に大幅に短縮させ、費用も約3割削減できる見通しだといいます。
参考:日経XTECH「宇宙スタートアップの天地人、水道管老朽化問題に挑む」

ビッグデータ活用の際に起きる課題
ビッグデータとAIの正の連鎖は、企業に大きな成長可能性をもたらしてくれる一方、期待しているような結果を得るためには乗り越えるべき課題もあります。
データ解析基盤の作成・整備の複雑さ
ビッグデータは、膨大なデータ量とそれに伴う多様性をはらんでいるため、堅牢な解析基盤の構築が不可欠です。これには高度な技術と専門知識が求められることから、システムの設計や運用に多大な労力を費やすこととなるでしょう。
またビッグデータの保存や処理に際しては、大容量のストレージや高性能な計算リソースが必要です。これらのインフラ整備に対してコストがかかる上、データのセキュリティーやプライバシー保護を実現するための、厳重な管理体制を構築しなければなりません。
これらの条件をすべて満たした環境構築は、人材確保や予算、そして時間的コストがかかるため、すべてを自前で対処することは困難といえます。
参考:さくらのクラウド「ビッグデータ分析のメリットと課題」
構築・活用ができる人材の不足
ビッグデータの効果的な活用には、データサイエンティストやデータエンジニアといった専門人材が不可欠です。しかしこういった高度IT人材の需要は高まり続けており、確保は容易ではありません。
ITの中でもデータに関する専門的なスキルを身に付けている学生の数は多いとはいえず、新卒採用での人材獲得競争は激しいでしょう。また、中途採用においてもエンジニア需要は高く、それを見据えて、働きながらデータサイエンスのスキルを身に付けようと学習を進めている人も少なからずいるのが現状です。
ましてや経験豊富で即戦力となれる人材は、相応のオファーを提示しなければ獲得は難しいことから、採用計画においても見直しが求められるかもしれません。
参考:Workship ENTERPRISE「データサイエンティスト不足の理由と対策」
AIとビッグデータを活用する際のポイント
こうした課題を乗り越えつつ、AIとビッグデータの正の連鎖の中に自社のビジネスも組み込んでいくには、以下の点を踏まえた対応の検討が必要です。
外部委託の活用で素早い実装
AI・ビッグデータの活用には、専門知識が求められます。そのため社内に十分なリソースがない場合、外部のAIベンダーなどの力を借りることが、迅速なプロジェクトの遂行には大切です。
そうした専門企業の力を借りることで、AIやビッグデータの知見がなくとも最新の技術やノウハウを迅速に取り入れ、プロジェクトの遂行能力を獲得できます。また、外部の視点を取り入れることで、社内だけでは気づきにくい本当に解決すべき課題の発見や、イノベーションにつながるアイデアの創出にもつながります。

ビッグデータの収集・保管環境を整備する
ビッグデータは効率良く、それでいて法的に問題ない方法で収集することが大切です。顧客データなどはあらかじめ許可を得た上で取り扱わないと、プライバシーの侵害に抵触する恐れがあります。各種APIやデータベース、IoTなど、ソフト・ハードを問わず柔軟にデータ収集のための手法を取り入れましょう。
またビッグデータの保存や取り扱いには、データの量や種類に応じた適切なストレージや管理システムの選定が必要です。セキュリティーやプライバシー保護の観点から、アクセス権限の管理や暗号化などの対策も欠かせません。
参考:ゼンリンデータコム「ビッグデータの基本と活用法」
まとめ
AIとビッグデータの正の連鎖は、現在のビジネスにおいて競争力強化の鍵を握ります。これらを上手に組み合わせて運用することで、精度の高い意思決定や提供する価値の向上、業務効率化といったメリットを期待できます。
一方でAIとビッグデータの活用には、データ解析基盤の構築や専門人材の確保といった課題も解決しなければなりません。これらの課題に対しては、AIベンダーなど外部の専門会社と協力して、業務の効率化や、適切なデータ管理を図っていくことが有効です。
AIとビッグデータの正の連鎖は、今この時も、意識しなくても進んでいます。だからこそ、その重要性を意識して細かな進展も追いかけるようにし、より良いビジネス活用の在り方を常に考えていくことが、さらなる価値向上につながるでしょう。
執筆者
マーケティング部 リードマーケター 熊谷勇一
中央大学文学部卒業、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了。日本経済新聞社など日経ブランド企業で16年、雑誌、書籍、ウェブサイト、動画などの編集・執筆を手掛けた後、2022年からLaboro.AIに参画。
執行役員 マーケティング部長 和田 崇
立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。



