
AIによる外観検査とは。ビジネス成長に向けたポイントも解説
2023.11.16公開 2024.12.5更新
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一
執行役員 マーケティング部長 和田崇
概 要
AIを用いた外観検査は、人間が実施するよりも多くのメリットが期待できます。そのため、生産性向上に向け、多くの事業場でAI外観検査の導入が進みつつあります。AI外観検査のメリットや成功事例、導入のためのポイントを解説します。
目 次
・AIによる外観検査とは
・外観検査でのAI導入の必要性
・人材不足の解消
・研修負担の解消
・新たな検査対象に素早く対応できる
・不安定なパフォーマンスの解消
・AIを活用した外観検査の仕組み
・画像分類
・物体検出
・セマンティックセグメンテーション
・AI外観検査サービスのメリット
・有人作業の削減
・検査品質の担保
・さまざまな異常パターンの検知
・誤検知の防止
・AIを用いた外観検査の成功事例
・豆腐メーカーにおけるAIラインピッキング
・レンズの品質検査
・連続めっきラインへの導入で90%の精度を維持
・鳥の営巣の検知を自動化。電力設備点検をスマートに
・自動車生産の外観検査をAIで。スマートファクトリー化に貢献
・ビジネス成長に向けたポイント
・イノベーションに前向きになる
・課題設定と目的を明確にする
・まとめ
AIによる外観検査とは
外観検査とは、製品の品質を維持・保証するために外観を検査することです。主に表面に付着した異物や汚れや歪みなどの異常がないかどうかを確認します。人間の五感(視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚)を使って品質を判断する「官能検査」の代表例であり、業界や製品問わず実施されます。外観検査は人間の目による目視検査が主流ですが、品質保証の観点から全数検査が望ましく、近年は画像センサの導入が進んでいます。
人間による外観検査は、従業員の数や作業時間を増やすだけで問題が解決するとは限りませんし、人材難といわれたり、労働時間が厳しく管理されたりする時代にあって、本質的な解決にもならないでしょう。
AIによる外観検査は、人間が実施している検査業務の一部ないし全部を自動化するに当たってAIを導入した外観検査システムを用いることです。その中核となるのは後述する画像に関する技術です。
参考:外観検査.com「外観検査とは」

外観検査でのAI導入の必要性
外観検査にAIを導入すべき理由は複数あります。人間による外観検査を実施する上で出てくる課題を解消できることがあるからです。
人材不足の解消
人間による外観検査の大きなネックといえるのが、人材不足の深刻化です。近年は多くの業界で人材の不足が懸念されています。業務遂行に必要な人材が賄えず、事業継続が危うくなることが問題となっています。
人間による外観検査は、人間の五感に頼った業務であるため、効率化に限界があります。人件費の上昇に伴い外観検査にかかるコストが大きくなると、収益性に問題をもたらすこともあるでしょう。
このような問題を解決できる可能性があるのが、AIによる外観検査です。外観検査に必要な人手を大幅に削減し、人件費の高騰や人手の確保に悩まされるリスクを抑えられるかもしれません。
研修負担の解消
新しい人材を確保できたとしても、すぐに現場で業務を任せられるわけではありません。業務に必要な能力・知識を獲得してもらうべく、研修を重ねなければいけないため、そのためのコストがかかります。
また人間の外観検査担当者は、異動や退職などに伴って変わっていくということもあります。新しい人材を採用する際にも通じる話で、外観検査に必要な能力をすでに持っている人を探そうとしても、そもそもそのような人がいないこともあり、異なる能力・経験を培ってきた人を早く研修できる体制を整えておくことも重要になってきています。
AIによる外観検査の導入は、こうした研修負担の発生を解消できる可能性があります。
新たな検査対象に素早く対応できる
市場のトレンドの移り変わるスピードが高まる中で、外観検査の対象が新しくなっていくことも考えられます。その際、新しい対象の検査のための学習には、一定の時間と労力が必要です。人間の場合はこの移行作業に時間がかかる場合があり、また移行当初はエラー率も高まることが懸念されます。
一方AIならば、学習のための十分なデータセットの用意などの条件を満たせば、結果的に人間よりも素早く、正確に実施できるだけでなく、人によって学習の進み具合が異なるなどのリスクがないという利点も生かせます。
不安定なパフォーマンスの解消
有人の外観検査は、その品質が担当者によってばらつくこともあります。人によって成果の出来不出来の差が開くと、安心して業務を任せることが難しいものです。また、その日の体調などによってパフォーマンスが左右されることもあり、規格化された要件に応えられない問題も出てきます。
AIによる外観検査は、このようなばらつきをなるべく小さく抑えるのに効果的です。AIの場合は人間のように体調の影響を受けることがもちろんなく、常に一定のパフォーマンスを維持することを狙えます。
AIを活用した外観検査の仕組み
人間が外観検査を行う場合、使う感覚はもちろん視覚です。AIにとって外観検査は画像処理に関わることであり、画像に関する主に下記の三つの技術を使い分け、高い精度を狙います。
• 画像分類
• 物体検出
• セマンティックセグメンテーション
画像分類
画像分類は、画像の中にある情報をAIに学習させることで、画像に含まれる特徴を抽出させ、必要に応じた分類ができるようにする手法です。
画像分類においては、教師あり学習によるデータセットのインプットによるAIの教育が広く採用されています。「この画像はイヌ」「この画像はオオカミ」など、画像ごとにラベル付けをすることで、AIの効率的な学習を促す方法です。
ある程度学習が進んだ段階で、ラベル付けがされていない本番データのインプットを実行し、画像の分類をさせます。
最近では、教師なし学習による画像分類の導入も顕著です。例えば東芝が開発した画像分類AIは、1枚の画像を一つの分類基準とする「疑似的な教師あり学習」を実施し、一部の画像にだけ存在する特徴を抽出できるとしています。学習時には、抽出する特徴が重複しないようにする独自の学習基準を設定しており、画像内の特徴からグループ化に有効な特徴量が作成できるとしています。
出典:MONOist「教師なし学習でも「世界最高クラス」の精度で不良品を見分ける画像分類AI」
:東芝「教師なしで複雑な画像の特徴を学習してグループ化する画像分類AIを開発」
物体検出
物体検出は、画像に含まれている特定のクラス、例えば風景の中のクルマや動物、人間といった「物体」を検出することができる技術です。単に指定したクラスが含まれているかどうかの確認(物体特定)のみならず、それがいくつ含まれているのか(物体カウント)、画像のどこに存在しているのか(位置特定)の実行も含めて物体検出と呼ぶことが一般的です。
身近な例では、スマートフォンのカメラ、自動運転における歩行者の検知などに利用されています。カメラでは指定した物体を検出したらそれを自動で追いかけて撮影できるように設定できたり、自動運転では歩行者を検知したら減速したり、といった制御に用いられている技術です。
代表的な手法としてR-CNN(Region-based CNN)、YOLO、SSD、DETRなどがあります。
セマンティックセグメンテーション
セマンティックセグメンテーションは、画像内のすべての画素に対してラベリングを実行する手法です。特定のカテゴリを形成する、画素の集まりを検出するために実施するもので、高度な識別を必要とする場合に役立ちます。
分かりやすい例として、自動運転車の識別能力の獲得が挙げられます。走行中、自動運転車は同時に複数の要素をインプットする映像から瞬時に識別することが必要です。標識や歩行者、横断歩道などの認識において、セマンティックセグメンテーションの実装が効果を発揮します。
物体検出との違いは、対象物の画像内を画素レベルで複数の領域に分けることができる点です。その結果、セグメンテーションは不規則な形状の対象物を明瞭に検出することができます。代表的な手法として、FCN、DeepLab、U-Net、SegNet、FPNなどがあります。
参考:高橋海渡ら『AIのしくみと活用がこれ1冊でしっかりわかる教科書』

AI外観検査のメリット
AI外観検査の導入は、事業者にとって複数のメリットが期待できます。具体的には、以下のような利点の獲得です。
有人作業の削減
AI外観検査の導入は、有人で対応しなければならない業務を大幅に減らすことにつながります。AIを外観検査に導入した場合でも、完全に人手をゼロにできるとは限りません。AIを管理したり、自動化した外観検査の仕上がりを最終的に確認したりする段階で、人間による対応が求められるからです。
とはいえ、AI外観検査の導入により、外観検査に伴う業務の多くの部分を無人化できることが期待できます。管理者が一人いれば、大規模な検査業務をAIに任せ、そのマネジメントだけで業務を完結させることも可能になるかもしれません。

検査品質の担保
AIによる外観検査の実現は、検査の品質を一定以上に保つ上で有効です。前述の通り、AIの強みは人間のようにパフォーマンスが経験や体調に左右されないところにあります。
もちろん、学習データが十分に蓄積されていないうちは、検査エラーが発生することもあるでしょう。しかし運用を進めていくにつれ、再学習も進んでいき、エラー率は一般的に下がっていき、より良い業務進行ができるようになります。
人間の場合、人によってそのパフォーマンスがばらついたり、学習にかかる時間が異なったりすることがあります。人間もAIも学習によって検査の精度が上がっていきますが、AIは人間のように途中で飽きたりやる気を失ったりすることなく着実に改善を重ねられ、計画的なパフォーマンスの向上が見込めます。つまり、中長期的な計画の確度を高める上でも、AI外観検査の導入は効果的だといえるのです。
さまざまな異常パターンの検知
AIによる外観検査のメリットには、多様な異常パターンの検知ができることも挙げられます。有人の場合、ある程度経験がなければ異常パターンのすべてを把握できず、業務上エラーが発生してしまうこともあります。また、パターンの数が増えれば増えるほど、人間はミスを起こすリスクも高まります。今後多くの検査事項が増えてくる可能性がある場合、検査員には高度なスキルを持った人材を選ばなければなりません。そのためには高い人件費が発生したり、研修の手間が増えたりと、やはりコストが増大していってしまいます。
AIではこのような経験不足を、学習のための十分なデータセットを用意することで補えることが期待できます。好き嫌いを言うことなく、多様な検査対象に対応できるでしょう。
誤検知の防止
誤って異常検知してしまう問題についても、AIならばその確率を小さく抑えることが狙えます。誤検知の内容をよく確認し、それに基づいてAIをチューニングできれば、同じ誤検知を二度と起こさないことが期待できます。ここでも、人間特有の「うっかり」「ぼんやり」といったエラーとは無縁に、安定したパフォーマンスを発揮するでしょう。
AIを用いた外観検査の成功事例
豆腐メーカーにおけるAIラインピッキング
四国化工機は、豆腐業界では初となるAI外観検査を採用したラインピッキングを導入しました。同社ではこれまでも機械による画像検査を導入したことがあったものの、豆腐という繊細な商品の検品を自動化することは困難が多く、人間による目視検査へ戻した過去もありました。
この度同社で新たに導入したのは、AIを用いたラインピッキングのシステムです。検品作業をほぼすべて自動化するというこのシステムの導入により、1日20時間稼働し、10万パック分の作業をこなすことに成功しています。
この速度は人間の実に10倍のパフォーマンスに相当するということで、強力な生産性向上と品質向上に貢献しています。
出典:IBM「四国化工機 | AIもめん豆腐検品システム導入事例」
レンズの品質検査
レンズメーカーのコンベックスは、従来、有人で対応していたレンズの目視検査工程を、AIに置き換えることに成功しました。
同社で課題となっていたのは、目視検査のための人手確保と教育です。検査員の確保に必要な人件費が重荷となっていただけでなく、その教育コストも発生していたことから、負担の削減には限界がありました。また、どれだけ熟練した検査員でも一定のヒューマンエラーは発生するため、そのエラーに伴うコストの発生も、同社を悩ませていたことの一つです。
そこで導入したのが、AIによる検査の自動化でした。レンズの球面を把握するのに最適な撮像機器の導入と検査AIの実装により、人間と同様、あるいはそれ以上の検査能力の確保に成功しています。
結果、高度な検査業務の自動化に成功しており、少ないエラーで高い顧客満足度を実現できました。将来的には24時間の自動検査が行えるよう、品質維持に向けた改善活動が進んでいます。
出典:MENOU「レンズの目視検査にAI採用、24時間の高品質な検査へ」

連続めっきラインへの導入で90%の精度を維持
淀川製鋼所では、連続めっきラインにAI外観検査を導入し、多大な成果を挙げることに成功しています。
同社が課題として抱えてきたのが、クライアントごとに異なる要求品質への対応です。求められる水準や要件が異なるため、人力でこれらを確認の上、水準へのすり合わせをしてきました。
また、従来の疵検査装置では詳細なNG分類が困難で、最終的には人間の検査員によるチェックが必要で、効率化にも限界を感じていた問題を抱えていました。
そこで導入されたAI外観検査は、これらの問題をすべて解決する上で大きな成果をもたらしました。従来の装置では難しかったNG分類を自動化し、精度を90%程度まで引き上げることに成功しています。さらに、AI外観検査が確かな成果をもたらしたことで、さらなるハイテクソリューションの導入に積極的な機運が高まり、工場全体のハイテク化に向けた活動が活性化しているということです。
出典:VR+R「株式会社淀川製鋼所 様」
鳥の営巣の検知を自動化。電力設備点検をスマートに
NTTコムウェアは、電力設備における鳥の営巣をAIによって検知し、迅速に対処ができる仕組みを整えるためのソリューションを開発しました。
ハトやカラスによる電力設備上の営巣は、巣作りの際に金属類のものが混じっていた場合、高圧線に触れると停電などを引き起こす恐れがあったため、早急な対処が必要です。これまでは目視で営巣がないかを確認したり、通報したりして対処してきました。しかしそれでは点検のために多くの時間を要する上、把握までに時間がかかり、対応が後手に回ってしまう問題もあったわけです。
そこで解決となったのが、AI外観検査による点検の強化です。自動車やバイクに搭載したカメラを用いて、街を走行しながら電柱などの配電設備を撮影します。撮影した画像をAIに読み込ませることで、営巣の有無を確認し、ピンポイントで撤去を進めることができる仕組みです。
営巣確認に必要だった人員は2人から1人へと半減でき、作業に迅速に当たれるようになったことから、現場の効率化に大きく貢献しています。
出典:NTTコムウェア「画像認識AI「Deeptector®」を活用した「営巣検知サービス」の提供開始」
自動車生産の外観検査をAIで。スマートファクトリー化に貢献
武蔵精密工業は、トヨタ自動車の生産現場に対してトランスミッションギヤ向けのAI外観検査ソリューションを導入しました。自動車分野における外観検査の今後のトレンドとして、同社が考えているのが電気自動車の搭乗による需要拡大です。電気自動車はガソリン車に比べて構造が複雑であるため、検査の工程や内容がもはや人間では対応が難しくなるというリスクを抱えています。
このような課題に対処すべく登場したのが、同社の開発した「Musashi AI」です。80年以上かけて培ってきた同社の精密な検査ノウハウをAIに学習させることにより、高水準なスマート外観検査を導入することに成功しています。
また、このAIは導入にかかる期間が短いことも高く評価されている点の一つです。最短で1~3カ月程度で生産現場へ投入が可能になるなど、業務の迅速な高度化に貢献しています。
出典:MUSASHi「トヨタ自動車向けにAI外観検査装置を追加導入 検査の効率化で電動化需要に対応」

ビジネス成長に向けたポイント
外観検査へのAIの導入はこれまで触れてきたように、うまくすれば現場、ひいては会社全体に高い成果をもたらすことが期待できます。前述の事例を踏まえ、AI外観検査の導入によるビジネスの成長を実現するための要点をまとめます。
イノベーションに前向きになる
AI外観検査を導入する上でまず必要になるのが、イノベーションに前向きになることです。現状維持にこだわるのではなく、課題や将来訪れるかもしれないリスクと向き合い、解決のための施策を取り入れていきましょう。
事例で取り上げた企業においても、人材不足やコスト増大の解決に向け、導入成功に至るまではいくつかの施策を実行してきたものの、上手くいかなかった背景を抱えています。AI導入に際しては、ゴールにすぐに到達できるとは考えず、改善を繰り返していくうちに成果につながるものと捉えるべきでしょう。
課題設定と目的を明確にする
AIを漠然と導入しても、問題解決のために必要なソリューションをうまく選定できなかったり、必要なノウハウの取得が現場で進まなかったりするのは当然です。AI外観検査の導入によって、具体的にどんな問題を解決するのか、それによってどんな目的を達成するのか、あらかじめ整理しておくのは当然です。その上で、その目的に、業務の改善だけでなく、企業としての成長も含められると、なお良いでしょう。
まとめ
この記事では、AI外観検査とはどのような取り組みなのか、導入によってどんなメリットが期待できるのかについて解説しました。
AI外観検査の導入を実現した企業では、すでに多大な成果をもたらすことに成功しています。人間よりもエラー率が低く、24時間365日、フルパフォーマンスを発揮できる可能性は、大きな強みです。AIの投入にはそれなりの設備投資が発生するものの、AIを導入しない場合でも人件費などでコストがかさみ続けることを考えると、費用対効果にも期待が持てる取り組みといえます。
本コラム中の導入事例を参考にしつつ、自社での導入に向けた課題の整理を進めていきましょう。
Laboro.AIでは、これまで外観検査に関するプロジェクトにも取り組んできており、「防衛装備品の製造におけるAIによる外観検査」という事例も生まれています。本事例では前述した三つの異常検出手法のうち最も適した手法を選び、高い精度での検査結果を得ることができました。また、さまざまな異常パターンの検知については、日本線路技術様とのプロジェクト事例「線路設備の不良判定の自動化」で取り組んでいます。
Laboro.AIの「カスタムAI」の開発においては、ビジネス環境や解くべき課題に合わせた最適な手法・アプローチを選択することで、AIによるイノベーション創出に向けた伴走支援を行っています。
執筆者
マーケティング部 リードマーケター 熊谷勇一
中央大学文学部卒業、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了。日本経済新聞社など日経ブランド企業で16年、雑誌、書籍、ウェブサイト、動画などの編集・執筆を手掛けた後、2022年からLaboro.AIに参画。
執行役員 マーケティング部長 和田 崇
立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。



