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不安で団結するZ世代。AIで“自動化しすぎる未来”を止めるためには

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不安で団結するZ世代。AIで“自動化しすぎる未来”を止めるためには

2024.11.4
監 修
株式会社Laboro.AI 執行役員 マーケティング部長 和田 崇

概 要

10代〜20代のZ世代は、彼らを取り巻く世界に対する深い不安によって団結していると言われています。その一つにあるAIへの不安は、多くの点で気候変動について若者が抱える不安と似ていて、彼らはその両方が制御不能になりつつあると感じているようです。

ただし、AIに対しては期待や信頼の感情も混ざり合っていて、AIに不安を抱える学生が自分の将来についてAIに尋ねるというような矛盾も起こっています。こうした傾向に敏感な若い世代の研究者は、AIシステムによる若者のメンタルサポートに取り組んでいたりもします。

より身近になりつつあるAI に「仕事が奪われる」という複雑な気持ちを抱える若者が、どうすれば自分の進むべき道を信じられるのか、彼らの不安に心を重ねながら考えてみたいと思います。

目 次

AIを知るほどに、期待も不安も大きくなる
 ・自分が将来なりたいものを信じられない
 ・若者もテクノロジーに置いていかれる
AIに対する不安は、気候変動と同じ
 ・Z世代は社会を取り巻く不安で団結する
 ・人間がAIに近づいている
AIに不安を抱えながら、AIに不安を相談する
 ・AIが将来の自分を見せてくれる
未知の脅威の中で育つZ世代
 ・情報が覆っても、自分を覆さない
「なぜ勉強するのか」を知りたい
 ・0.01%の使える水を探すように
未来を作るのは、AIではなく若者たち
 ・「自動化」<「拡張」を目指す

AIを知るほどに、期待も不安も大きくなる

自分が将来なりたいものを信じられない

「将来、何になりたいですか?」

ほんの数年前まで、この質問に対して進路選択の岐路に立つ若者たちの答えは、ある程度の確信に基づいていました。しかし、圧倒的な量とスピードに加え、アウトプットの質が急速に人間を追い越しつつある生成AIの成長を目の当たりにし、学生たちは自分の将来の仕事がどうなるのかという不安を大きくしています

しかしその気持ちは矛盾を孕み、AIが利益をもたらすという期待も入り混じっているのだそうです

若者もテクノロジーに置いていかれる

最も賢い人間よりも賢いAIが登場するのは「恐らく来年か、2年以内だろう」と、イーロン・マスク氏が予測したように、近い将来AIはどうなってしまうのだろうという不安がますます現実味を帯びています。

例えば「GPT-4」のパフォーマンスは、標準化された適性検査において、平均的な人間の集団の95%を超えているという報告がなされており、その後に「GPT-4o」や「o1」が登場、いまだその成長に限界は見えていません。また、テキストから画像を生成できるようになったAIが生成した画像は1年間で150億枚という驚異的な量で、この数は写真が発明されて以来の150年間に撮影された写真の数にほぼ匹敵するそうです

人間の予想を超えた成長スピードを更新し続けるAIの時代に、人間の能力をどのように守っていけばいいのかと提起し、著書『The Skill Code』にまとめたカリフォルニア大学サンタバーバラ校のマット・ビーン助教授は、次のように述べています

「新しいテクノロジーが登場すると、通常、その恩恵は若者に広がります。しかし、AI の進歩は猛烈なスピードのため、すべての賭けは外れている」

AIに対する不安は、気候変動と同じ

Z世代は社会を取り巻く不安で団結する

現在10 代〜20代で「デジタルネイティブ」とも呼ばれるZ世代は、生まれた時からインターネットやデジタル機器に囲まれてきた世代で、インターネットで世界とつながり、多様性や気候変動など社会の課題にも敏感です。

今若者が抱えるAIに対する不安は多くの点で気候変動について感じる不安と似ていて、その両方が制御不能になりつつあると感じているそうです。そうしたことから、Z世代は「世界を取り巻く深い不安によって団結している」と言われています

人間がAIに近づいている

50業種に及ぶプロフェッショナルを対象とした「職場におけるAIの認識」レポートによると、回答者の半数以上が、AIが仕事を代替することに懸念を示し、中でも最も高いレベルの不安を示したのがZ世代でした

若者の仕事に対する参加度合いは目に見えて下がりつつあるようで、イギリスの国家統計に基づいたデータをみると、Z世代の働かない若者の数は他のどの年齢層よりも急増しており、10年前よりも10%も多くの若者が仕事をしていないのだそうです。こうした状況についてイギリスのシェフィールド大学経営管理学スクールのリチャード・マーフィー教授は、「若者が現代の職場に幻滅する理由は十分にある」という意見を述べ、若者の共感を呼んでいます。

例えば、AIでどんどん自動化されていく一連の採用プロセスは、その状況をよく表しているかもしれません。雇用主側の効率を上げることはできるものの、一方の応募する若者にとっては、AIに選ばれるように履歴書を歪め、画面に向かってプレゼンをし、多くの時間を機械とのやりとりに費やすことになり、そうした労力にもかかわらず、実際にはスキルや経験が足らないために選考を突破するのは難しい・・・前出のマーフィー教授の動画にも、そのプロセスは非人間的で「魂を打ち砕かれるものだった」というコメントがありました。

「AIが人間に近づいている」と世間では言われますが、実際には人間がAIに合わせて歩み寄っていて、そういった体験を重ねるうちに若者は、人間に対する信頼さえも見失ってしまうのかもしれません。

AIへの不安を抱えながら、AIに不安を相談する

AIが将来の自分を見せてくれる

AIに対する疲弊感が増大しているように見える一方で、若者にとってAIは日々の勉強や課題を助けてくれる心強いツールというだけでなく、苦しい時の心の拠り所へと存在意義を拡大していることも事実です。LLM(大規模言語モデル)の躍進によってAIにさまざまなことをオープンに尋ねるようになった若者たちは、ある瞬間は難しい数学の解き方を聞いていたとしても、次の瞬間には未来に対する不安を相談していたりするのです。

そうした現状に応えるように、若い世代の研究者の間では、若者のメンタルヘルスをサポートするAIシステムの開発も進んでいます。中でも、今年10月に発表されたマサチューセッツ工科大学開発のユニークなAI システム「Future You」(未来のあなた)が注目を集めています。

このシステムは、LLMをベースに「私があなたの歳だったときは…」などと話す言語パターンを用いて未来の自分と会話している感覚を高めます。60歳の架空の自分と会話しながらユーザーに“将来の自己継続性” を感じさせることで、ユーザーの人生の選択をアシストすることができるとされています

ちなみに将来の自己継続性とは、個人が未来の自分との連続性を感じる度合いのことを指します。研究によると、将来の自己継続性を強く意識している人は、経済投資、学業での成功、自己啓発に関してより思慮深い決定を下すことがわかっており、このAIシステムを通じてそれを意識させることで、人々が将来のキャリアを検討したり、現在の決定が将来にどのような影響を与えるかを評価したりするのに役立つのだそうです

未知の脅威の中で育つZ世代

情報が覆っても、自分を覆さない

そもそも10〜20代の若者は気候変動やコロナウイルスなど、溢れる情報の中で、何が正しいのか、誰が正しいのかわからない未知の脅威を感じながら成長してきました。AIに関して言えば、学校ではAIを禁止されたかと思うと、それをまた撤回されるというような手のひら返しの方針変更を経験したりもしています。今では教師の方が生徒よりも多くAIを使用しているとされるレポートもあるほどです。

振り返れば、戦時中〜戦後の日本でも、子どもたちがそれまで勉強してきた教科書の内容を墨で塗りつぶさなければならなかった過去がありました。養老孟司氏は自らそれを体験したために「間違ったら墨を塗ればいい」という感覚が身についてしまったと、次のように言います

「国民が命懸けでやったことでも戦後になったら墨で塗りつぶす。『世の中ってそういうもんだろ』っていうのが完全に入っちゃった、子供の時に。」

世界経済フォーラムの『グローバルリスク報告書 2024年版』では、誤情報やフェイクニュースなどを含む「偽情報」が、今後2年間に世界が直面する最も深刻なリスクとしてランク付けされているように、AIによって情報の質が以前よりも問われるようになりました。

しかしながら、昔から情報というものは、それをそういうものだと受け取るのではなく、受け取る人が自分の物差しで判断しなければならないものであり、しばらく急激な社会変化を経験しなかった私たちの考える力が鈍っていたことにも気づかされます。

「なぜ勉強するのか」を知りたい

0.01% の使える水を探すように

教師たちがAIを使った不正を既存の枠組みの中で心配している一方で、学生たちはAI時代に足を踏み入れながら「なぜ学ぶのか」と、より根本的な疑問と格闘しています。

実際、アメリカで子どもたちの権利擁護団体コモン・センス・メディアが12歳〜17歳までの子供を対象に行った調査によると、自由回答であるにもかかわらず、5人に1人が「生活を改善するためにできる最も重要なこと」として、教育制度の改善または改革と回答したそうです

きっと私たちの中には「この方程式は将来何の役に立つのか」と思いながら勉強していた人も少なくないでしょうが、鉛筆さえも使う必要がなくなっていく社会で、今の若者はより本質的な問いを立てる想像力に長けているのかもしれません。

実はそのような批判的な視点は、AI時代の人間に必要な能力として求められる可能性があります。AIは完全ではないため継続的な監視が必要で、品質管理の仕事が強化される可能性が高いと考えられているからです。人をAIに盲従させないように、AIの出す答えを人の成長を後押しするものにすることは、AI 開発側における重要な課題としても投げかけられています

地球の表面の70%が水であるにもかかわらず人間の生活に使える水が0.01%だけであるのと同じように、莫大なデータが生成されている世界で若者が疑いの目を拡張し、社会に有用なものを見極めることができれば将来に光が見えてくるのかもしれません。

「自動化」<「拡張」を目指す

未来を作るのは、AIではなく若者たち

イノベーションが多くの雇用も生み出すということは歴史が証明しています。しかしそれは「自動化」よりも人間の能力を「拡張」するものとしてテクノロジーが用いられた結果であり、過去40年に限っては、自動化による雇用侵食の影響が強まった一方で、人間の能力の拡張による雇用増加の影響は強まっていないのだそうです

AIはとくに自動化に役立つとされるツールではありますが、きっと疑いの目を失わなければ、テクノロジーによって「自動化」した分、それ以上に自分は「拡張」しているのか確認し、自分の可能性を広げる挑戦を続けることは可能でしょう。今持ち上げているダンベルをAIに代わりに持ってもらうなら、自分の空いた手は新しいダンベルを持つ、というように挑戦をやめなければ人は新しい仕事を生み出せるのかもしれません。

人生は「真っ白いキャンバスに色を塗っていく」とよく例えられますが、実はそうではなく、放っておけば暗くなってしまう人生を、どれだけ明るくできるかという挑戦を重ねていくものなのだという話を目にしました。大自然と共に生きたカメラマン、星野道夫さんの著書「イニュニック 生命-アラスカの原野を旅する」の中に、次のような言葉があります。

「黒いキャンバスの上にどんな明るい色を塗っても、その下にある黒はどうしてもかすかに浮き出てくる。だから再びその上に色を重ねてゆく。私はね、生きてゆくということは、そんな終わりのない作業のような気がするんだよ」

このままいけば時間が経つほどにアルゴリズムはより賢くなり、AIのつくる仮想世界はより魅惑的になり、非仮想の現実世界に目を向けられなくなっていく未来もあるのかもしれません。

私たちはAIを未来の象徴のように掲げますが、子どもや若者こそが未来であり、教育においても仕事においてもAI開発においても、社会を導くものとして彼らの能力を拡張するAIのあり方を追及し選択していくことが、今の大人に課せられた責任なのかもしれません。

監修者

株式会社Laboro.AI 執行役員 マーケティング部長 和田 崇

立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。

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