
パーソナライゼーションとは。マーケティングを加速するAI活用法
公開2024.1.4 更新2025.1.14
株式会社Laboro.AI リードマーケター 熊谷勇一
執行役員 マーケティング部長 和田崇
概 要
市場のトレンド変化が急速なものになるのに伴い、マーケティング上で広く注目されているのがパーソナライゼーションです。一人ひとりの顧客のニーズに特化したサービスの提供は、新規顧客獲得はもちろん、リピーター、ロイヤルカスタマーの獲得という面でも重視されている取り組みです。パーソナライゼーションには、膨大な量のデータとそこから顧客ごとの特性を見いだすことが必要ですが、AIを活用することでより精度の高いパーソナライズを実現した例も出てきています。
目 次
・AIによるパーソナライゼーションの重要性が高まっている理由
・顧客期待の高まり
・取得できるデータの多様化とデータ活用の進化
・競合サービスに対して競争優位性を生む
・AI技術で進化するパーソナライゼーション
・協調フィルタリング:ユーザー行動データの活用法
・コンテンツベースフィルタリング:好みに合わせたパーソナライズ
・強化学習を利用したリアルタイムの最適化
・多腕バンディット
・AIを活用したパーソナライゼーションの上で起き得る問題
・コールドスタート問題
・顧客情報不足
・パーソナライゼーション×AIの活用事例
・AIを活用した福利厚生代行サービス
・メール文面案を顧客に合わせて自動で作り分け
・生成AI対話サービスでスキンケア
・パーソナライズされた献立を提案するAI
・クロスセルとアップセルの両方を狙える
・まとめ
AIによるパーソナライゼーションの重要性が高まっている理由
パーソナライゼーションとは、「パーソン」の派生語で、「個人的なものにすること」「個人に応じて変更したり作り変えたりすること」です。マーケティングの分野では、インターネットなどを通じて各ユーザーの情報を取得・解析し、その人に合った広告を配信したり、商品やサービス、コンテンツをレコメンドしたりすることを指します。
似たような概念にカスタマイゼーションがあります。パーソナライゼーションでは、商品・サービスを提供する側が顧客の興味・関心を引くことを目指して、レコメンドの内容を最適化し、購買につなげることが目的とされます。それに対してカスタマイゼーションは、ユーザー自身が最適化を実施し、商品・サービスを使いやすくすることが目的です。動画投稿サイトで言えば、サイト側から動画をレコメンドするのはパーソナライゼーションで、ユーザー一人ひとりによる再生リストの作成や再生速度の調整はカスタマイゼーションです。
パーソナライゼーションの例には他に、ネット検索もあります。例えばGoogleは、ユーザーが検索したキーワードを基に、求めているものや意図、目的を予測して、検索結果に反映する「パーソナライズド検索」を2005年から導入しています。ユーザーの所在地、過去に検索したキーワード、過去に訪問したウェブサイトなどを参考にして検索結果に反映させていると言われています。
出典:デジタル大辞泉「パーソナライズ(personalize)」
Adobe Experience Cloud「マーケティングにおけるパーソナライゼーションとは?MAとの組み合わせや注意点」
顧客期待の高まり
パーソナライズな顧客体験は、すでに消費者の間で当たり前のニーズとして広がりつつあることを示す調査結果も出てきました。2022年にAdobe社が発表した調査によると、AIによる製品レコメンデーション機能によってパーソナライズされたプロモーションやオファーを、67%の消費者が実店舗やオンラインで提供されたいと考えているとのことです。また、パーソナライズされたレコメンデーションを受けた消費者のうち、72%が「想定より多くの商品を購入することになった」と回答しています。
これは言い換えれば、AIを活用してパーソナライズされた情報は消費者にとって有益であり、購買意欲を高める施策として機能しているとも言えるでしょう。
参考:Adobe「Adobe Commerce消費者調査:パーソナライズされた顧客体験の重要性が明らかに」
取得できるデータの多様化とデータ活用の進化
AIによるパーソナライゼーションへの注目が集まっているのは、個別最適化するために扱えるデータの種類や量が増えたこと、そしてデータ活用の手法が進化を遂げていることも理由です。
世界で生まれ利用されるデータの量は、2025年に180ゼタバイトに上るという予測があります。この数字は2022年の2倍に当たる量であり、急激なデータ増が進んでいることが分かります。
また、そうした膨大なデータを扱うAIの進化も著しくあります。生成AIの代表格であるChatGPTは、言語モデルのアップデートを頻繁に繰り返しており、最新モデルに至ってはもはや人間の応答と同じくらい自然なものになっていると言われます。
こうしたデータやAIに関する環境の急激な変化とそれに伴う進化が、AIによる実効的なパーソナライゼーションの可能性を高め、関心を集めているというわけです。
参考:日本経済新聞「データ量爆発、25年に2倍」
競合サービスに対する競争優位性を生む
AIを活用したパーソナライゼーションは、競合サービスとの競争優位性の面からも注目を集めています。現状ではまだ多くのサービスが比較的大きな集団を対象としたマス・マーケティングの領域を脱し切れていないのが実情で、それぞれの顧客についての動向を幅広いソースからリアルタイムで収集し、より個別化された情報をレコメンド内容に反映できれば、商品サービスの独自性を醸成することにつながるからです。
特に、食品や日用品などのコモディティ化が進んで差異が少なくなっている商品カテゴリー、いわゆる最寄品においては、顧客の好みを迅速かつ正確に把握し、最適化された提案ができることが、競合商品との差別化に効果を発揮する可能性が高く、競争力を高めることにつながります。さらにオンラインだけでなく、カメラ映像の解析などを通してオフラインでも顧客ごとの活動を収集し、パーソナライゼーションに活用できることは、AIならではの強みです。
参考:IBM「AIパーソナライゼーション」

AI技術で進化するパーソナライゼーション
パーソナライゼーションは、AIの力でより正確で強力なものへと進化しています。以下は、競争力を確保するためのパーソナライズを実施する上で、欠かせない技術です。
協調フィルタリング:ユーザー行動データの活用法
他ユーザーの行動パターンやアイテムの類似性を対象のユーザーと比較するレコメンドシステムが協調フィルタリングです。「似ているユーザー」を購入履歴やレーティングから導き、「ユーザー同士」あるいは「ユーザーとアイテム」を結び付けることで実装されます。対象ユーザーの行動分析を基に他のユーザーに対する類似度を算出し、類似度が高いユーザーが分かると、その類似ユーザーが購入した商品を対象ユーザーにレコメンドするユーザーベースの協調フィルタリングと、訪問ユーザーの行動分析を基に商品(アイテム)同士の類似度を算出するアイテムベースの協調フィルタリングの二つに大別できます。
コンテンツベースフィルタリング:好みに合わせたパーソナライズ
あるユーザーの購入履歴やプロフィールなどから、そのユーザーの個人的な嗜好を見つけて商品やコンテンツを薦める手法がコンテンツベースフィルタリングです。協調フィルタリングと違い、他ユーザーのデータは使用しません。例としては、「筋トレが好き」とプロフィールに記載しているユーザーに筋トレ関連のグッズを勧めることなどが挙げられます。
強化学習を利用したパーソナライズ
強化学習を利用したパーソナライズとは、データが十分になくて後述する「コールドスタート問題」が起き得る状態からでも正確なパーソナライズを行う可能性を持った手法です。閲覧履歴や購入履歴などの情報が不足していも、あらかじめ学習しておいたユーザーの好みや嗜好性に関するデータを基に、正確なレコメンドを狙えます。
この機能は、常に収集され続けているユーザーのログを参考に、リアルタイムでパーソナライズされた顧客体験を提供する上で有効です。
参考:DOORS DXMedia「「強化学習」を活用したレコメンドの精度向上で、顧客コミュニケーションはどう変わるか」

多腕バンディット
さらにパーソナライゼーションの性格を強めた手法の一つに「多腕バンディット」があります。バンディットとはスロットマシンのことで、多数用意されたバンディットを限られた回数操作して払戻金をいかに多く得るかという問題に例えて名付けられました。言い換えると、払戻金という報酬が多く得られる方法を学習するという、強化学習の一種です。この派生手法に当たるのが「文脈バンディット」で、例えばある人が職場にいるときは反応されたが自宅にいるときには反応されなかったレコメンデーションは「その人にとって職場向きのレコメンデーション」として、居場所という文脈を考慮して学習していくことです。
レコメンデーションにおいて、どこからどこまでがパーソナライゼーションたり得ているかの明確な線引きはありません。しかし文脈バンディットのように居場所まで考慮したレコメンデーションは、パーソナライゼーションの度合いが高いと言えるでしょう。

AIを用いたレコメンデーションについては、こちらの弊社コラムもご覧ください。
潜在意識も刺激する、AIを用いたレコメンデーション
AIを活用したパーソナライゼーションの上で起き得る問題
AIを活用したパーソナライゼーションは、強力な競争優位性をもたらす一方、注意すべき問題点もあります。
コールドスタート問題
ユーザーベースのレコメンデーションを始める場合、サービスを始めたばかりはユーザー情報が当然まだ少なく、有効なレコメンドをすることができないという「コールドスタート問題」があります。アイテムベースは商品・サービスの類似度を中心にした仕組みなので、コールドスタート問題をカバーする手になり得ますが、弱点もあります。商品・サービスが増えるにつれて、それら同士の類似度を評価・管理するのに手間が増えていくことや、すでに保有している商品・サービスを何度もレコメンドしてしまうことなどがあります。なお、こうしたお互いの弱点を補うために、両方を組み合わせて最適化を図る手法はハイブリッドレコメンドシステムと呼ばれます。
商品に関するデータの拡充や、ランキング方式、検索ワードに基づくレコメンデーションなどによって、AIの能力を補うことも大切です。
参考:Silveregg Technology「AIに「温故知新」ができないとき – ビジネスの現場における、コールドスタート問題の解決策」
顧客情報不足
顧客に関する情報が不足していても、AIによるパーソナライゼーションはうまく作用しません。少ないデータから顧客へレコメンドを実施する技術は進んでいますが、最低限の嗜好性や、行動に関するログ情報は確保する必要があります。
参考:Adobe「Adobe Targetによって実現するパーソナライゼーション戦略」
パーソナライゼーション×AIの活用事例
AIを活用した福利厚生代行サービス
テレワークの環境整備を手掛けるHQ社は、AIを活用した福利厚生代行サービスを始めています。利用者の性別や年代といった属性や好み、悩みなどのデータを活用してAIがパーソナライズしたメニューを提案できます。一人ひとりの個性が注目される時代においては、考えているキャリアプランやワークライフバランスの取り方も大きく異なってきます。そこで活躍するのがカフェテリアプラン(選択型福利厚生)サービスで、特に企業の人材育成戦略に合わせた資格取得や語学学習などのメニューを、従業員ごとに推奨してマッチングできることを強みとしています。
参考:PRTimes「国内初、AI活用の福利厚生プラットフォーム「カフェテリアHQ」を提供開始」
メール文面案を顧客に合わせて自動で作り分け
セールスフォースは、営業や問い合わせ対応のメール文面案を顧客に合わせて自動で作り分ける技術を国内で導入しており、そこでは生成AIが活用されています。特に顧客情報やチャットツールなどと直接連携できるというセールスフォースの強みを生かし、顧客対応のパーソナライズ化を進める狙いです。
例えば、得意先に「昇進祝い」のメールを送りたい場合、お祝いの言葉に加えて、過去のメール内容から得意先の関心事を文面に盛り込んだり、打ち合わせの予定調整用のリンクを自動で加えたりできるとしています。メーカーにおける購入者による問い合わせ対応においても同サービスが有効で、以前の問い合わせ履歴や購買履歴を確認の上、AIによって正確な自動返信をしたり、人間による軽微な修正だけで返答を実現したりと、日々の業務負担の削減に貢献しているのも特徴です。
参考:日本経済新聞「セールスフォース、購買歴でメール作り分け 生成AI活用」
生成AI対話サービスでスキンケア
フランスの化粧品メーカー・ロレアルは、生成AIを活用した対話サービス「Beauty Genius」を発表しています。「あなたの肌タイプは」「長時間のフライトの後なのでかなり乾燥していると思う」「色素沈着はなさそうですね」「日焼け止めを毎日使って、しみを防いでいるんだ」「肌に合わせたスキンケアを提案します。まずは1.5%のピュアヒアルロン酸にモイスチャライザーとウオータークリーム…」といった対話ができ、スマホのカメラを使った肌診断も経て、スキンケアに関する助言が得られるとしています。
同社ではこれまでも肌の状態を分析するアプリを展開しており、10ペタバイトものデータをロレアル・データ・プラットフォームに保有していると言います。肌診断のAIは、50カ国のメーキャップアーティスト1万人以上の知見を基に、皮膚科医がタグ付けした15万枚以上の画像で学習。10以上の異なる大規模言語モデル(LLM)を統合することで助言が出せると発表しています。
出典:日本経済新聞「仏ロレアルがCESで基調講演 AI時代の「美の形」提示」

パーソナライズされた献立を提案するAI
当社Laboro.AIでもこうしたパーソナライゼーションAIの開発実績として、味の素様に向けて開発を支援したAIエンジン「献立検索エンジン」があります。同社は製品開発や研究開発で培った健康や栄養に関する知見やノウハウ、データ、数々のレシピデータを保有しており、さらなる顧客価値向上とビジョン実現に向け、これらのデータの活用方法を模索していました。そこで料理をつくる多くの人が抱える悩みとして、献立づくりがあることに着目したのが開発のきっかけです。
詳しくはこちらをご覧ください。
ユーザーニーズを満たす「献立作成エンジン」

クロスセルとアップセルの両方を狙える
パーソナライゼーション・レコメンデーションを含めて広く最適な提案をしていくことのメリットには、クロスセルとアップセルの向上が挙げられます。クロスセルでは、顧客が興味を持ちそうな関連商品・サービスを提案することで、顧客の購買体験を豊かにし、同時に売り上げの向上を図ります。例えば、ある本を購入した顧客に対して、同じ著者の別の作品や類似のジャンルの本を推薦することが当てはまります。
アップセルでは、顧客が検討している商品よりも高価格帯や高機能の商品・サービスを推薦することで、平均購買価格の増加を目指します。もちろんアップセルでも「高くてもいいから高機能が欲しかった」といった豊かな購買体験を得てもらうことも狙えるでしょう。
まとめ
商品・サービス提供におけるパーソナライゼーションを最適なものにできれば、カスタマーエクスペリエンス(CX、顧客体験)が向上し、より売上への貢献も期待できます。しかしその際、商品・サービス提供に付随して提示する情報も大量かつ複雑になり管理コストがかかることに加え、人力で最適な提案メニューを考案するには限界があることから、その分、AIの力を借りる価値は大きいと言えます。
一方、前述の通り、ユーザーの所在地や過去に検索したキーワードといった個人情報を活用している面もあり、プライバシー保護は欠かせません。2022年に米国の18歳以上1000人を対象に実施された調査では、53%が「媒体が何であれブランドと関わるたびにユニークでパーソナライズされた体験を期待している」と回答した一方、49%が「自分のデータが保護されているという感覚はパーソナライゼーションよりも価値がある」と答えています。パーソナライゼーションへの期待と同じくらい、プライバシーを守りたい気持ちもあるということです。
パーソナライゼーションの進展においては、プライバシー保護とCXの向上を両立させることが必須です。さらにはそこに関わるAI技術も日々進化していることから、その動向を追いながら導入内容を検討していくことが、マーケティングにおけるパーソナライゼーション活用のポイントになるはずです。
出典:Braze「消費者にとってのプライバシーとパーソナライゼーション:透明性の重要性」
執筆者
マーケティング部 リードマーケター 熊谷勇一
中央大学文学部卒業、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了。日本経済新聞社など日経ブランド企業で16年、雑誌、書籍、ウェブサイト、動画などの編集・執筆を手掛けた後、2022年からLaboro.AIに参画。
執行役員 マーケティング部長 和田 崇
立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。



