
PoCを越えろ。AIプロジェクトが幻に消えないために
2022.4.3公開 2025.12.1更新
株式会社Laboro.AI 執行役員 マーケティング部長 和田 崇
リードマーケター 熊谷勇一
概 要
2010年以降、各産業分野で急速に活用に火がついたAIですが、その開発工程の中で難関と言われるのがPoC(ピーオーシー/ポック)です。「PoC疲れ」「PoC死」などの不吉なワードも生まれ、PoCは多くの企業AIプロジェクト のネックとなってきたようです。それほどの難しさを伴うPoCとは何なのか、そして開発フェーズでどのような役割を持ち、どう乗り越えていくべきか、今回のコラムで考えていきます。
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目 次
・PoCとは
・PoCの重要性
・PoCと混同しやすい用語
・AI開発のプロセス
・企業の夢を阻む「PoC疲れ」「PoC死」が起きる原因
・PoCを成功に導くポイント
・まとめ
PoCとは
これまでのコンピュータでは実現できなかった処理をも可能にするAI技術は、さまざまな産業・業種で活用が進んでいます。すでに生活の一部として社会に溶け込んでいるAIプロダクト・サービスもあり、今後さらにAIの活用は加速していくはずですが、そうした製品やサービスに搭載するために、あるいはビジネスにAIを活用するためには当然ながらAI部分の開発が必要になります。
しかし、AI開発のフェーズの中でも多くの企業の夢を阻んでやまないのが、PoCと呼ばれるものです。
PoCは “Proof of Concept” の略語で、日本語では「概念実証」と訳される開発フェーズの一種です。新しい商品やサービスの簡易版を作成し、期待しているような品質や結果を得られそうかという仮説検証を小規模で実施します。PoCを何度も実行することにより、実現の見込みを確かめたり、改善のポイントを確認したりできます。
もともとは研究・開発の場面を中心に用いられていたPoCの考え方ですが、最近ではあらゆるモノがネットにつながるIoTやAIの広がりに伴い、幅広い領域で用いられるようになっています。特にAI活用においては人間の経験や知識を踏まえた予測や既存のセオリーが及ばない部分も多く、アイデアが生まれた際には「やってみなければ分からない」ことがほとんどだからです。
AIの導入によりどんな結果が期待できるのか、どんな懸念があるのかを検討する上で、PoCの工程は不可欠と言えるでしょう。

PoCの重要性
PoCが重視されるのは、開発に伴うリスクの軽減に効果を発揮するためです。新規性の高いプロジェクトは、費用対効果が見えづらく、場合によっては投じた時間や費用がすべて無駄に終わってしまうこともあります。特に、AIは従来のIT技術と異なり、「やってみなければ分からない」側面が必ず伴います。
このような不安を軽減する上で役立つのが、PoCのフェーズです。小規模で簡易的な開発に取り組み、実現可能性について探ることで、少ない負担で、なおかつ高い確度で開発継続の意思決定が行えるわけです。
また、PoCを開発工程の初期に組み込んでおくことにより、開発コストの削減にも役立てることができます。早い段階でプロジェクトの核となる部分にアタリを付けられるため、不要な機能の実装にリソースを割き、後から削除するような無駄を回避できるからです。
参考:NRI「PoC(概念実証)」
PoCと混同しやすい用語
PoCと混同しやすい用語を三つ挙げて説明します。
プロトタイプ
PoCと似たような意味を持つ用語として「プロトタイプ」という言葉が挙げられます。プロトタイプは、PoCよりも方向性や実現可能性が高まっている段階で着手する試作品開発工程です。PoCの場合、それより上流の検証作業に際して発生する簡易版の構築であり、プロトタイプよりもシンプルに作り上げることとなります。
出典:NTTデータグローバルソリューションズ「PoC(概念実証)とは? 新技術やシステムの検証、実現までのステップについて解説」
MVP
MVPは “Minimum Viable Product” の略称で、プロダクトとして最低限の状態にあるものを言い、開発の初期段階で作成されます。ユーザーからのフィードバックを受けながら、完成を目指せる状態にあるのが特徴です。一方でPoCはユーザーに提供することを想定せず、製品化も定かではない状態で、コア部分の開発に注力します。段階として、PoCはMVPよりも上流に位置するものと言えます。また、PoCが学びを得るための一過性の実験であるのに対し、MVPはそのまま製品として成長していく最初のバージョンという位置付けです。
出典:日本経済新聞「PoCとMVPの違いはなんですか?」
実証実験
「実証実験」はPoCとほぼ同義で用いられることの多い言葉です。厳密には、PoCが新技術やアイデアの実現可能性を検証する取り組みであるのに対し、実証実験のニュアンスには想定される課題や効果を現場で検証することがあります。とはいえ、PoCによって新たな問題点が発見されることもあり、実際には両者に明確な違いはないとされています。社内では用語の定義を事前に擦り合わせ、認識のズレによる混乱を避けることが望ましいでしょう。
出典:NTTデータグローバルソリューションズ「PoCと実証実験・プロトタイプの違いとは」
AI開発のプロセス
PoCについて説明するにあたって、AI開発のプロセスを追いかけてみたいと思います。様々な捉え方はあるものの、AI開発のプロセスは大きく4つに分けることができます。
① 企画・構想フェーズ
まずは、AIによってどのような課題を解決するのかについて企画を行います。
解決すべき課題を定義し、それがAIを用いるテーマとして相応しいかを議論し、費用対効果(ROI)が得られるかを確認します。最終的に、このプロジェクトを進めるかどうかの投資判断をします。
② PoCフェーズ
企画・構想フェーズで決定したプロジェクトについて、目指す成果がAI技術で達成可能かを試験的に検証する段階がPoCです。PoCでは仮のモデルを実際に開発し、データは必要十分に収集・確保できるか、期待する精度・処理速度結果が得られるか、オペレーションに問題がないか、策定したROIが得られるかといった目線で、アジャイルに開発が進められます。また、既成のAIシステムやAIプロダクトなどでそのビジネス課題が解決できる可能性もあるため、どの程度スクラッチ開発とするかなどついても検討します。
解決したい業務課題に対して、どんなAIを実装すれば結果を出せそうかの仮説と、達成すべきゴールを設定しましょう。そのゴールに紐付く実施計画を策定の上、実験と検証を行い、結果を評価して仮説の有効性や実現可能性を探ります。

③ 開発・実装フェーズ
PoCフェーズで技術的に、そしてビジネス的にもその実現性が確認できれば、開発・実装フェーズに移行します。PoCフェーズで仮モデルを開発していますが、本番開発にあたるこのフェーズでは、改めて実際のビジネスオペレーションに適した仕様に基づいて再開発することがほとんどです。
要件定義
どのようなアルゴリズムを使ってどのようなデータを出力するかというAIモデルの仕様、それを実現するためのデータの検討など、プロジェクトを進めていくに当たって必要な要件を改めて定義していきます。本番開発の羅針盤となる要件定義は非常に重要で、ここが甘いと開発・導入が失敗したり、無駄な出戻りが発生したりするなどのロスを生みかねません。
データ収集
PoCフェーズにおいてデータを収集していた場合でも、本開発ではさらに多くのデータが必要となることも少なくありません。必要なデータが十分に取得できる見込みが立っていない場合には、継続的にデータ取得できる体制を構築するなど、ビジネスオペレーション側にもメスを入れいく必要があります。
モデル開発
要件定義に基づいて作られた仕様書、収集したデータを用い、AIモデルを開発していきます。実開発は企業での内製化が難しいフェーズであり、AIベンダーに依頼されることがほとんどです。開発後にはテスト/評価を行い、正常に処理が実行されるか、期待した精度・速度結果が得られるか、業務オペレーションに支障がないかなどを検証し、問題がある場合には前後の開発プロセスを行き来し、細かな調整・修正を進めていきます。
④ 運用フェーズ
無事に開発が完了してビジネス現場に実装できた後には、そのAIシステムを運用するフェーズに入っていきます。AIは“作って終わり”ではなく、次々と入力されていく未知のデータに合わせた調整やデータの再学習、システムの保守、そしてビジネス上のKPIの確認など、改善のためのPDCAを常に回していくことが重要です。

企業の夢を阻む「PoC疲れ」「PoC死」が起きる原因
冒頭から”難関”としてPoCをご紹介していますが、AI開発/AI導入プロジェクトでは、このPoCフェーズで何かしらの問題で失敗・停滞し、開発が中止になることが少なくありません。
構想フェーズで夢描いたプロジェクトの青写真が技術的に実現可能かを初めて検証するPoCでは、期待する精度や処理速度の成果が得られず、PoCを繰り返し実施することで現場が疲弊したり、予定していた予算を使い切ってしまったり、そもそもビジネスに何の役にも立たないことが判明してプロジェクトの仕切り直しを迫られたりと、失敗が起きやすいのが実際です。「PoC疲れ」とは、まさにこうした一向に次段階の本開発に進む目処が立たずに停滞してしまう様子を、そして「PoC死」はこのPoCの段階でプロジェクトが中止になってしまう事態を指す言葉です。
プロジェクトごとに内容が様々であることから一概にその理由を示すことはできませんが、PoC疲れ・PoC死が起きる原因としては、以下のようなことが考えられます。
目標や成果が曖昧なままスタートする
「とにかくAIを導入したい」などはこの代表例ですが、目標のない技術活用がうまくいくことはまずありません。また、AI開発で避けなければならないのは「とりあえずやってみよう」と見切り発車で開発をスタートさせることです。企画・構想フェーズで解決すべきビジネス課題を洗い出し、プロジェクトの目標を定め、実施のマイルストンを置き、どのような成果が得られれば成功と言えるのかを決定・共有し、費用対効果を判断する基準を設ける必要があります。
そして、こうした内容を担当者だけではなく、プロジェクトマネージャー、エンジニア、業務担当、さらには上層部の認識として一致させた状態でスタートしなければ、後々に各部門からの指摘・要望がプロジェクトの進行を妨げることにもつながってしまいます。

完璧な精度を求める、または、曖昧な評価基準を設定する
AIという技術はその特性から、100%の正解を示すということはありません。ゴールを具体的な数値で設定することはもちろん重要ですが、検出精度の数字にこだわりすぎた結果、処理スピード的に全く現場で使い物にならないものが出来上がったなどはよく耳にする話です。また、「精度9割」のように曖昧な目標を設定してしまうことも失敗の原因です。AIの評価指標には正解率、適合率、再現率、F値など様々な基準があり、様々な観点からその精度を評価する必要があります。
現場不在でプロジェクトを推進する
AIという世の中的にも新しい技術を用いるにあたっては、経営企画部門、新規事業部門、DX部門など全社横断部門が中心となって現場部門への導入プロジェクトを進めることが珍しくありません。しかし、現場部門へのヒアリングや調整が不十分だった結果、実際の現場で全く価値のないものを開発してしまったり、現場部門から導入を拒否されてしまったりなど、現場不在を原因とした失敗は後を断ちません。
一方、現場の意見を尊重しすぎ、結果として全社的なビジネスインパクトにつながらない小粒なプロジェクトに留まってしまったり、当初の目的とは異なるものへと次第に内容が変貌して行ったりというケースも存在します。企業ビジネスへのAI導入にあたっては、その主管部署がプロジェクトオーナーとしてブレのない適切な役割を発揮することが鍵になります。

外部任せで自社にノウハウが蓄積されない
PoCを外部ベンダー任せで進めてしまうと、自社にノウハウが蓄積されず、プロジェクトが“やりっぱなし”になる危険があります。実際、PoCまでは進んだものの、本格開発や運用段階で自社だけでは前に進めなくなり、計画自体が頓挫するケースも少なくありません。外部頼みに慣れてしまうと社内の主体性が損なわれ、重要なフェーズで失速してしまうのです。PoC疲れを避けるには、外部の力を借りる場合でも必ず自社メンバーが関与し、知識を吸収して次につなげる姿勢が不可欠です。
PoCを成功に導くポイント
世の中のAI開発/導入プロジェクトの報告例や事例を眺めてみると、PoC疲れ・PoC死の原因としては、上のほかにも次のようなものが挙げられます。
・「ライバル企業が導入したから」という理由で、とりあえずスタートしてしまった
・何のために、何を開発するかが不明瞭なまま、予算だけ確保してしまった
・最終決裁をするマネジメント層がAIのことを理解していなかった
・経営と現場とでAIに対する認識や目標が合っていなかった
・とりあえず付き合いのあるITシステム業者に委託してしまい、言われるがまま進行
・プロジェクトマネージャーが不在のままだった
・現場がデータ収集に協力してくれない
・データがあるだけで、開発用に整備はしていなかった
・既存のシステムとの連携を考えていなかった
・予算は開発費用のみで、保守・運用に必要な経費を見込んでいなかった
・AIを実際に利用する現場部門に落とし込みができなかった
・現場オペレーションに全く即していないシステムだった
・そのシステムを使うよりも人がやった方が圧倒的に早くて楽だった
こうして並べてみると、PoC失敗の原因はAIにあるわけではなく、むしろプロジェクトの進め方、他メンバーの巻き込み方、教育・浸透、組織体制、知識不足など、人に関わる部分がほとんどであることに気付きます。
AIという技術は確かに新しく、専門的な領域であり、その扱いには特殊なスキル・ノウハウが必要ですが、その失敗の原因や難しさはAI特有のものではありません。新しい物事を組織の中に導入するということはある意味、新たな習慣や文化を浸透させることと同じです。なぜAIという技術を活用する必要があるのか、AIを用いることでどのようなメリットが自社にもたらされるのか、AIによって消費者や社会はどうより良く変わるのか、まずはこの基本的な信念を担当者自身が考え、理解し、関係メンバーに深く腹落ちさせるほどの自信と熱意を持つ必要があります。

ビジョンと成功指標を明確に定義する
PoC開始前に、プロジェクトのビジョンとKPIを明確に設定することが重要です。ゴールが不明確なままではプロジェクトが方向性を見失いやすく、何をもって成功とするか判断できずにPoCが長引く一因となります。解決すべき課題や期待する成果を具体的に描き、ステークホルダー間で共有しましょう。さらに定量的な評価指標を定めておけば、PoCの成果を客観的に測定できます。こうしたビジョンと指標の明確化が、PoCを単なる実験で終わらせず成功への道筋を示す羅針盤となります。
スモールスタートで早期に成果を検証する
PoCでは大きく構えすぎず、スモールスタートで早期に成果を検証する姿勢が肝要です。小規模な検証から始めれば、大きなコストをかけずに迅速に結果を確認し、必要な調整を素早く行えます。例えば製造ラインの一部や限定的なデータセットで試行し、得られたフィードバックを基に改善を重ねることで、無駄な投資を避けつつPoCの有効性を高められます。早期に小さな成功体験を積むことで社内の期待値を適切に調整し、PoC疲れに陥る前に次の判断へ進みやすくなるでしょう。
現場と一体となったプロジェクト推進
PoCを成功させるには、現場(製造の現場担当者など)と一体となってプロジェクトを推進することが不可欠です。現場の実ユーザーに検証に参加してもらうことで、「操作が複雑すぎる」「現在の業務フローに合わない」など運用面の課題を洗い出せます。こうしたフィードバックをPoC段階で得て対策することで、導入後に現場で使われない「絵に描いた餅」を防ぐことができます。現場の知見を取り入れ、共に課題解決に取り組む姿勢が、PoCの成果を実務に結び付けて定着させるポイントとなります。
社内にノウハウを蓄積する
AIの開発を外部に任せる場合でも、自社にノウハウを残すことは欠かせません。それは、現場の知識に基づいた調整や、AIの良し悪しを判断する主導権をしっかりと自社が握るためです。AIの精度は、アルゴリズム等の仕組み以上に、データの背景や何が正解かという定義に左右されます。外部パートナーは、AI開発のプロであっても、業界特有のルールや現場の勘所まで詳細に把握できていないこともあります。もし開発の中身が不透明なまま進んでしまうと、時間の経過とともにAIの性能が落ちたときや、実際の運用に移行する段階で、自社で評価の基準を作り直せなくなります。そうなれば外部パートナーに頼り切りになり、身動きが取れなくなるリスクが高まります。AIが出した答えが本当に正しいのかを見極め、信頼性を保つ最後の判断は、常に自社において行うべきです。

まとめ
AI導入プロジェクトでもう一つ陥りがちな点として、AIの技術部分ばかりに目を向けて、ビジネス側の設計が疎かになってしまうことが挙げられます。AIであろうと何であろうと新たな技術・システムを導入するということは、多少なりともビジネス側のオペレーション改善やプロセス変更など、既存体制へのメス入れが必要不可欠です。例えば、製造ライン上にある製品の破損を検出する画像AIシステムを導入する場合には、人員配置の変更はもちろんのこと、空いた人員リソースをどこに割り当てると全体最適化によりつながるか、またAIの見落とし分はどう人にカバーさせるか、AI検品プロセスは前工程・後工程の関係からどこに置くのかなど、業務オペレーションを組み直す必要性が発生します。
一般的に「AI開発」と言うと当たり前のように技術面ばかりが注目されがちですが、開発するAIに合わせてビジネス側も再設計することが必要になります。当社Laboro.AIでは、こうしたAIとビジネスの両サイドを設計(デザイン)するための独自メソッド「ソリューションデザイン」を用いて、70%を超えるプロジェクト継続率を実現しています。
Laboro.AIの独自メソッド:「ソリューションデザイン」とは
執筆者
執行役員 マーケティング部長 和田 崇
立教大学大学院経営学修士(マーケティング論・消費者行動論)。立教大学大学院ビジネスデザイン研究科博士後期課程中退。KDDI株式会社に入社、コンシューマ向け商品・サービスのクロスメディアによるプロモーション施策の立案・企画運営に携わったのち、全国漁業協同組合連合会を経て、2019年にLaboro.AIに参画。マーケティング/ブランディング業務に従事する傍ら、NewsPicksプロピッカーとして活動するほか、日経クロストレンドなどメディア寄稿多数。
リードマーケター 熊谷勇一
中央大学文学部卒業、北陸先端科学技術大学院大学情報科学研究科博士前期課程修了。日本経済新聞社など日経ブランド企業で16年以上、雑誌、書籍、ウェブサイト、動画などの編集・執筆を手掛けた後、2022年からLaboro.AIに参画。



